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エイズ◆すべての人が平等

中日新聞朝刊 2006.07.14


 フィラデルフィアという街に、アメリカ人は特別な思いを抱いています。自由、平等、兄弟愛をうたった独立宣言が採択された、アメリカ合衆国の誕生の地だからです。


 トム・ハンクスがエイズを発症した弁護士役を演じた「フィラデルフィア」(1993年)も、平等と尊厳の意味を問いかける名作です。


 一流の弁護士事務所に勤めるアンドリューは、ある日、医師からエイズを宣告されます。事務所はミスをでっちあげ、彼を解雇します。


 アンドリューは不当な差別として訴訟を決意しますが、エイズや同性愛への偏見は強烈で、手伝ってくれる弁護士が見つかりません。アンドリューはかつて法廷で対決したことがある黒人の弁護士ミラー(デンゼル・ワシントン)に依頼します。当初は渋っていたミラーも「愛する法律と正義のために」というアンドリューに心を打たれ、引き受けます。


 この時代、エイズは「死の病」でした。アンドリューも免疫力が低下し、衰弱していきますが、ついに不当解雇の判決を勝ち取ります。テレビのインタビュアーから「同性愛者は特別扱いされるべきか」と問われたミラーが「この街で独立宣言が採択され、平等の権利も保障している。普通の人間の平等ではなく、すべての人間が平等なのだ」と答えるシーンは胸にしみます。


 今もエイズにより、年間三百万人もの人々が亡くなっています。貧困にあえぐアフリカの国々では、多くの患者さんが治療薬を手に入れることもできません。先進国では、死亡率はかなり低下しましたが、根強い偏見、差別が患者さんを苦しめています。わが国では、予防の正しい知識が若い世代に広がらず、いまだに患者、感染者の増加に歯止めがかかりません。


 同性愛の人を白い目で見る医療関係者、予防啓発のために子どもたちにコンドームの知識を教えることを「セックスを助長する」などと反対する教育関係者は、正しい知識と意識を身につけてほしいものです。

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